インプラント 治療期間など、今年注目の旬ワードを紹介

診断さえつけば、治る病気は治り、治らない病気は治らないわけですから、医者の仕事の八割がたが終ったことになり、医者はその時点で安心してしまうのです。
特定病因説が幅をきかせた感染症の場合は、個体側の条件のバラツキは病気の経過に無関係ではないにしても、大勢に影響しないと思われていたわけですから、診断が確立し、病原菌が同定されれば、試験管内でその細菌の発育を強力に阻止する抗生剤を選んで用いることによって高い確率で成功するはずで、治療を診断に一〇〇%近く従属させる形の論理構造ないし作業過程は、あまり大きい破綻を示しませんでした。
しかし特定病因説ではおおいきれない慢性病の時代になると、困難はあっても、バラツキを前提とした上で、治療それ自身の科学性、客観性をできるだけ高めるための一定の方法論をうち立てなくてはならなくなりました。
これによって治療の科学化の手がかりが与えられるようになったのですが、まだわが国には診断さえ正確なら科学的な治療が可能になるという思い込みが強く支配しているように見えます。
診断に到達するまでの過程で科学としての豊かな面白さを満喫し、また研究者としての精も根も使い果たし、泥沼の治療に立ち向かう気力があまり残っていないということかも知れません。
また治療研究というのは診断的研究と異なり、何となく起承転結があいまいで歯切れが悪く、研究者の潔癖さにそぐわないからでもありましょう。
その上、現代治療の主役である薬剤は臨床医学研究者自身が創造したものではなく、したがってそれについての研究は製薬企業からの頼まれ仕事の形となる場合が多いことも、臨床医学研究者の潔癖感を逆なでするのかも知れません。
それにしても、医療の目標は診断でなく治療にあることは明らかですし、研究はともかく、実際の診療の場面では、医者は治療に強い関心を持たねばならないし、また現実に持っているはずですから、治療それ自身の科学を構築するための努力を怠るべきでないでしょう。
なお、治療にどのように結びつくのか、患者自身には理解しにくい診断方法が近年著しく増加したために、そのことが患者の大きな負担になっていることもつげ加えておかねばなりません。
「「血栓性静脈炎であることは九〇%確実だが、はセントをさらに上げるために、あなたの静脈は細いから苦しいかも知れないけれど、静脈造影術を行いたい」といわれるのですが、どうしましょう」という相談を一人の婦人からもちかげられたので「そんなことは断って脚を高く上げて寝ていなさい」というアドバイスをした、といっている医者がいます(ウ。
ルフ)。
診断の確実さが九〇%でいいか九五%の方がより安心かは場合によることですから一概にはいえないとは思いますが、その根底には「やらなくてはならないから、やる」というよりも「やることができるから、やろう」という姿勢がうかがえて、いささか気がかりです。
検査責めの最近は「薬漬け」に代わって、あるいはそれと並んで「検査漬け」という言葉曰く、医者は伝票を切って検査室へ廻すか、検査業者に依頼するだけですから、まことに気楽です。
また念のためにできるだけ多くの情報を集めておけば、診断をいっそう確かにし、患者の全体像を描くに便利なことも確かでしょう。
血液の生化学的検査にしても、今日では自動分析器が一度に十数種あるいは二十数種の数値を必要・不必要にかかわらずはじき出してくれますから、人間から出発するのではなく生化学的数値によって描かれるプロフィルだけから逆に病名を推定するというような芸当も、やろうと思えばできなくはありません。
しかし今日の医療機関に対する不満ないし恐れの少なくも一部は、患者への十分な説明なしに行われる検査、検査の連続です。
なかには医者自身「おれがやられるのは、いやだなあ」というような検査もなくはないのです。
昔から「治療による診断」という言葉がありました。
サルバルサンを注射してみて、症状が軽くなれば病気が梅毒であると逆に診断するようなやり方です。
むやみに乱用されては困ることは確かですが、九〇%まで診断が確かめられている場合、大げさな検査をして確実さを五%高めるよりも、簡単な治療を試みて様子を見るという戦略の方が、少なくとも患者にとってはありかたいでしょう。
とにかく「やれることは何でもやっておく」という診断における完全主義は、同じことが治療の場にも見られるのですが少なからず患者を悩ませていることは明らかなようです。
完璧な検査情報を揃えておくことは研究上望ましいことであり、将来の患者の利益のためにも望ましいには違いありませんが、目の前の一人の患者の利益の方が全世界の患者の利益に優先しなくてはならない、というのが医療というものの基本原則であることを忘れてはならないでしょう。
臨床の場では、デュボスのいう個人的道徳性を統計的道徳性のために犠牲にすることは本来は許されないのです。
医者の世界では、症例報告ということがしばしば行われます。
それまでにあまり報経験主義告されていないような、多少とも「珍しい」患者を見つげて発表することが、取りつきやすい研究の一つの形として広く行われているのです。
症例重視一経験主義は臨床医学の顕著な体質の一つです。
実際、一人一人の患者についての経験を積み重ねることによって個の医者の診療能力が高められ、また臨床医学全体が進歩するのです。
医者にとって最良の教師は患者である、ともいわれるゆえんです。
今日のような科学的医学の時代になっても医者の修業が徒弟的な色合いをなお色濃く残さざるをえないのも、そのためです。
このように一例一例の患者の重みが大きく、したがって一例一例の患者についての印象がきわめて鮮烈ですから、医者はともすれば偶然的な経験を安易に法則化して、しばしば、柳の下にドジョウを求めがちになるのです。
そこで、「治療は科学ではなくアトである」などといいたくもなるのです。
その上、医者は一般に、ありったけの知恵をしぼって患者を治そうと努めているものですから、幸いに患者の病気が治れば、自分の努力のせいであったと善意に解釈しがちなのは人情です。
せっかくの努力が無駄であったとは思いたくないのです。
一方、不幸にして病気が治らなかった場合は、有効な治療にもかかわらず病気が重すぎたのだと言い訳して、つまり相手のせいにして、自らの責任を解除しがちです。
今日では病気になるとすぐ何らかの治療が加えられますから、病気の自然の成り自炊治癒力行き自然史が見失われがちですが、ほとんど気のきいた治療法がなかった昔でも、すべての患者が死んだわけではありません。
今日にくらべ治癒率は大変低かったことは事実ですが、たいていの病気は死亡する者よりも治る患者の割合の方が多かったのです。
癌のような恐ろしい病気でも進行が一時とまることがあり、きわめて稀には自然に治った例も報告されているのです。
人間の体の中のからくりや病気が治る過程がほとんど全く分がらなかった時代から、日常経験に茶づいて、生物には自然に健康を回復する「力」があることが信じられ、これを「自然治癒力」と名づけていました。
これは古くからの西洋医学の概念ですが、東洋医学でも「自然良能」という言葉が用いられていました。
けがをしても出血は自然に止まるし、傷口は自然にふさがるし、小さい傷の場合は傷跡も残しません。

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